内閣府 新SBIR制度 統括プログラムマネージャー 古川尚史氏インタビュー
- 藤崎 翔太
- 2月17日
- 読了時間: 9分
更新日:2月18日

スタートアップ等による研究開発とその成果の社会実装を支援する新SBIR制度を推進
内閣府のSBIR制度の運営を統括する統括プログラムマネージャーである古川尚史氏に、SBIRと今後の展望などの話を聞いた。
INDEX
SBIRについて
&SmaRt:「SBIR」とはどういうものかということと、SBIRが生まれた背景を聞かせて頂けますか?
古川:SBIRは、「スモール・ビジネス・イノベーション・リサーチ」の略で、中小企業からイノベーションを起こすためのプログラムです。このプログラムの由来はアメリカで、アメリカがこのプログラムを使ってクアルコムや、ルンバのiRobotも、出来たてのシードの段階から、このSBIR制度を使ったことによりあそこまで成長しました。
&SmaRt:ということは、アメリカでは、かなり昔からある制度という事ですね。
古川:そうです。このSBIRの制度は、要は「会社を興したいが、まだビジネスモデルが見えていない」とか「あまりにも技術オリエンテッドで事業の方向性が見えていない」というような会社には、VCはお金をつけません。となると、エンジェルがお金をつけるしかなくなるので、なかなかお金は集まらないという結果になります。そこで、VCとエンジェルの間の立ち位置で、国がお金をつけましょうという事になるのが、この制度です。
また、このお金のつけ方も、「投資」ではなく、「業務委託」になります。国として、例えば、20年後に「こういうロケットが欲しい」とか、「こういうロボットが欲しい」とか、「こういう通信技術が欲しい」という設定をして、この実現のために、これらの技術や知見を持つスタートアップに協力してくれませんか?という流れになります。
もちろん、これは、この業務委託の選定は、「公募」という事になりますが、公募に応募したベンチャー企業・スタートアップが、研究開発のステージ毎にステップを踏んで「ここまで研究開発が進み成果が出たなら、次はここまで進めて下さい。その次を実現する為に幾ら払います」という金額の枠を設けていきます。
最終的に、その研究開発が成果をあげる事が出来た場合には、政府で一気に調達します。ある意味、技術基盤ができ上がって、それを民生展開することによって、日本から新しいディープテック(Deep Tech)の大きな会社が出来上がります。アメリカのこの制度の成功例を見て、「これはいい制度だね。日本でもやろう」という事で、20年近く前からこの制度はありました。
しかしながら、日本では、この制度による大きなイノベーションがなかなか起きない事が問題となり、ただこの制度を利用して、中小企業に費用を支払うのではなく、SBIRとして、より明確な指針を示し、先に、国から案件を設定して、その案件に手を挙げた会社に研究委託する、開発委託するという仕組みに変えたのが、2021年度からとなります。
&SmaRt:という事は、前からこのSBIRの制度があったが、2021年よりこの制度のビジョンを明確にしたという事ですね。
古川:そうです。この制度改革になり、足長くSBIRの制度を活用した企業の育成をしていかないとなりませんので、SBIRの運営を民間人かから採用するとなりました。役所の外の人から募集をして、それで中長期的にSBIRを運営していくとなったわけです。
&SmaRt:SBIRの制度の「公募」は、年間にいくつ程度出されますか?
古川:2022年度で、約30程度を予定しています。
2021年度から、新しい体制と制度が始まりましたが、2021年度は、このオペレーションのための準備運動みたいな感じでした。実際2022年度からこの公募が開始され、これ以降も、毎年30案件程度を予定しています。
&SmaRt:公募で採用された案件の期間や金額はどうなりますか?
古川:最初は、期間1年で800万程度となり、その後、次のステップに進む場合には、2年間で、5,000万円となり、更にその後のステップに進めば、いよいよ政府調達側に進む場合もありますし、VCが投資をするという事にもなると思います。
この制度としては、このいずれの場合でも、支援した企業が大きく羽ばたいてくれれば良いと考えています。
&SmaRt:SBIRの制度により業務委託を受ける企業への資金の提供時期は、補助金的に、事業実施後に精算して払うものですか?それとも、事前に金額を設定し支払うものですか?
古川:その点ですが、制度上は前払いが良いと考えますが、現時点ではまだ事業実施後となっています。ただ、もともと、研究開発に資金が無い企業に利用してもらう制度ですので、前払いが望ましいとなります。この点は、今後、制度を変えるように進めていきたいと考えています。

古川さんのSBIRまでの経歴について
&SmaRt:古川さんのこれまでのご経歴など教えて頂けますか?
古川:東京大学を卒業し、日本銀行に入行しました。日銀では研究者の仕事をしており、今で言うAIのようなシュミレーションを行う業務をしていました。
日銀の中にマクロシミュレーターというのがあり、日銀は金利を変えますが、金利を1%変えると、経済にどういう影響があるかというのをコンピューターでシミュレーションをします。そのマクロシミュレーターのメンテと新しい情報が、四半期毎に、GDPとか出てきますので、それを入力し未来を予測する為に、多重解析の係数を探しに行くことをしていました。
今であれば、AIが勝手にやることができますが、当時は、そういうシステムがありませんでしたので、必死に人力で対応していました。
日銀時代では、実際のビジネスの事や現場を全然知らなかったので、その後、ボストン・コンサルティング・グループ(BCG)に行って、現場のビジネスを2年半叩き込んできました。ただ、日銀からBCGへの転籍は、あまりの環境変化に大変な思いをしましたのも事実です。
&SmaRt:その後に、BCGの後はどうされましたか?
古川:その後にBCGのメンバーと不動産の投資ファンドを立ち上げ起業しました。
ただ、そのファンドの投資案件先が、残念ながら途中で倒産しまして、そのファンドは、この案件ありきであった事もあり、このファンドはクローズさせる事となりました。
それで、次の仕事は、今更、大企業で働くのもなと思い、とりあえずは個人コンサルを始め、ファイナンスのことも当時ファンドをやったおかげである程度は理解してましたので、仕事の半分以上を資金調達に関するコンサルをしていました。
2007年からは経営共創基盤でディレクターを務め、ハンズオン型の経営改革に従事していました。2015年以降は、NECライティング(現ホタルクス)の取締役、サンバイオの執行役員を歴任し、ロボットベンチャー企業のイノフィスの代表取締役社長と会長を歴任しました。
&SmaRt:そこから内閣府のSBIRですか?
古川:はい。それとVCの東大IPCを兼務しています。
&SmaRt:SBIRの仕事に携われるきっかけはあれば教えて下さい。
古川:イノフィスを退任した当時が50歳だったのですが、さて、ここからどうしようかと考え、ありがたくも、幾つかの仕事の話も頂きましたが、その中で内閣府が人を募集している事を知りました。新しいイノベーションを起こす為の仕事があり、その業務の運営のトップでデシジョンをする人と、それを支えるサブの人の募集をしている事を知りました、
私は実は、サブで応募しましたが、内部の方々が私の事を知っていて、面接の際に、「トップでも良いか?」と言われ、今のポジションの仕事をやらせていただいたというわけです。
その後に、東大IPCのお話を頂きました。
&SmaRt:それでは、内閣府の方が先に決まっていたんですね。
古川:そうです。東大IPCは、最初は、投資先の「CXO」の仕事の紹介でしたが、最終的には、東大IPCから「うちで働きません?」という話になり、投資先のサポートをしてくださいという事となりました。
投資先のサポートがメインなのですけれども、今は、キャピタリストもやらせて頂いています。
&SmaRt:東大出身で、日銀でキャリアを開始された方で、ファンドやVCに限らず、起業したり、スタートアップの経営者をやられたりと、多くの経験を積まれてきたのですね。
古川:そうですね。ベンチャーって、総合格闘技的な要素があるじゃないですか。なので、それを全部体験出来たのは良い経験になっています。
&SmaRt:今の肩書きであり内閣府と東大IPCだけ聞く割と、やはり、投資する経験しか無いのかという先入観で古川さんと見てしまうかと思いますが、ご自身でも投資を受け、その投資で事業を立ち上げるというスタートアップ経営者の経歴を歩まれた経験のある方は、なかなかいないのではないかと思います。

SBIRの今後の展開について
&SmaRt:SBIRの話に戻りますが、支援を受けたい企業はSBIRの情報をどこから得ることが出来ますか?
古川:SBIRの専用サイトで情報を公開します。
実際の公募は、JST(国立研究開発法人科学技術振興機構)とNEDO(国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構)が担いますが、新しくなったSBIRの制度は、まだ始まったばかりですので、これから告知や公募の手段が更に拡大がしていく可能性も十分あります。
&SmaRt:スマートプレスとしても、多くのスタートアップや技術力の高い企業のネットワークがありますので、SBIRの制度に合致しそうな企業や技術があれば、ご紹介させて頂ければと思います。
また、SBIRはまだまだ変化や進化していく事が分かりましたので、今後も定期的に情報交換の機会を頂ければと思います。
古川:そうですね。良い案件は、すごいウェルカムですので、例えばですけど「この案件はドローンじゃないでしょう。今、実はこんな技術出てあります。こちらを育成しませんか?」という提案を、各省庁の方にしていければと思います、各省庁も、必ずしも各案件における全ての技術情報を把握しているわけはありませんので、「そういう技術があるのだったら、面白いからSBIR制度のこの案件で活用しよう」という議論ができるんです。私は、常に新しい情報や技術をネットワークしていく必要があると考えています。
&SmaRt:日本版「SBIR」の今後の展開に期待しています。
本日は貴重なお話を頂き有難うございました。

内閣府 科学技術・イノベーション推進事務局
新SBIR制度 統括プログラムマネージャー
古川 尚史
東京大学工学部化学システム工学科卒、東京大学大学院経済系研究科修士課程修了。1995年、日本銀行入行。2000年7月ボストン・コンサルティング・グループで勤務後、不動産投資ベンチャー企業を起業。以降、複数のベンチャー企業のハンズオン型経営に携わる。2015年以降、NECライティング(株)(現在(株)ホタルクス)取締役、サンバイオ(株)執行役員、(株)イノフィス代表取締役社長・会長を歴任し、2021年新SBIR制度のプログラムマネージャーに就任。